避妊手術 子宮卵巣摘出手術

一般的に動物病院では子宮および卵巣を摘出する
子宮卵巣摘出手術(SPAY:スペイ)が避妊手術として行われています。
ここでは避妊手術について解説を行っていきます。

よく話題になっている避妊手術の適齢期
ここではいつ手術をするべきか?について解説していきます。

避妊手術の時期ですが「避妊手術のメリット」で解説した通りできるだけ
早期に行ったほうが、予防効果が大きくなりメリットも大きくなります。
その為出来るだけ早期に実施するほうが望ましいと考えられます。
しかしながら懸念点として避妊手術には全身麻酔を伴い、個体が成熟する前に 麻酔を行った場合、麻酔リスクが高まることが考えられます。

上記の2つの観点より手術時期を決定するのですが、
具体的には獣医師の考え方と個体の状態によって変わります。
特に焦点となるのが初回発情前に行うか否かという点です。
上記にもありますが乳腺手術の発生率は初回発情前で0.05%、
2回目発情前で8%で比較的大きな違いが認められます。
そのため可能ならば初回発情前に行いたいのですが、超小型犬など麻酔が心配な症例は
体が十分成熟するのを待ってから手術を行うケースもあります。

もう一点、初回発情後に手術を行う理由として、手術予定が変更になる
場合があることも挙げられます。
手術前には血液検査やレントゲン検査を行って問題ないことを確認するのですが、
検査に問題がなく手術予定を立てていたが、直前なって発情を迎えてしまったという
ケースが一定の割合であります。
発情時は子宮や卵巣への血流量が増加し、出血量が増えてしまう恐れがありますので、
基本的に発情時での手術は避ける場合が多いです。
その為、発情前の避妊手術を計画していた場合、予定通りに手術を
行えない可能性
がある点について理解していただく必要があります。

獣医師の解説

     避妊手術はおそらく小動物臨床へ進んだ獣医師が
     2番目に習得する手術であると思われます。

もしくは体表の良性腫瘤(MASS)切除が候補になるかと思います。
いずれの手術においても、基本的に全身状態が良好な動物で行われることが多く
比較的リスクは低いと考えることができます。
避妊手術には手術において基本となる重要な手技が多く使用され
一般的に避妊手術をきちんと行えるようになれば、手術の基本を修めたと
獣医業界では考えることが多いです。

筆者の周囲ではおおよそ3年以内で切皮から閉腹まで、完全に自身で行えるように
指導を行っている病院様が多い印象です。
ただし、病院毎に新人獣医師の教育方針には差があり、1年目はひたすら手術室で
手術の指導を行っている病院様もいらっしゃいます。
(筆者の知人の先生では「飼い主様対応のほうがより高度な業務である」と考え、
ある程度の手技・経験を積ませてから診察室に出すという方針を持っています)

避妊手術は上記のように、難易度は高くない手術ではあるのですが、
だからと言って決して雑に行ってはなりません。避妊手術は腹腔内にある子宮
を摘出するため、確実な血管の結紮・止血が重要になります。
もしも、おなかの中で結紮糸が緩んだりしてしまうと出血によって、命に係わる
可能性があります。止血のためには再び開腹を行い出血点を確認して
改めて止血を行わなければなりません。
またおなかの中には摘出する子宮だけでなく、様々な臓器があり血管が走っています。
手術においては目標となる臓器・組織へ速やかにアプローチし、周囲組織への
影響は最小限にすることが望まれます。

飼い主様を不安にさせない様、ここに明記させていただきますが
避妊手術においてきちんとした手術が行えるよう、病院様ごとに
きちんと対策を行っています。(詳しくは去勢手術参照)
リスクの少ない手術だからこそ、問題が起きないよう慎重に行われている
病院様が多いです。

ここで一点、獣医師ポイントなのですが、
避妊手術では手術の仕上がりを気にされる飼い主様が多いかと思います。
そのうえで術創(切開線)は小さいほどもてはやされる傾向があるの
ですが、ここに少し誤解があるように感じています。
というのも、子宮を小さい術創から取り出すということは、それだけ子宮を引っ張って
いることを表しています。術創はおなかの中を覗く窓のようなもので、
窓の近くのものしか基本的には取り出すことはできません。
その為、小さい術創で手術を行う際には、子宮を引っ張って窓のそばに持ってきている
ということになります。子宮はもともと妊娠時など大きく拡張し
よく伸びる組織なので問題はないのですが、術野は当然見難くなってしまいます。
その為、医学的にはとにかく小さな術創が推奨されているわけではありません。
(重度の疾患ではむしろ、術野をしっかり確保することが推奨されます)
飼い主様のニーズへ答える形で行われるようになってきた、サービスとしての
傾向が強いです。

さらに付け加えると、外観上で見えているのは「皮膚の切開線」だけです。
皮膚の下には、皮下織・筋肉・腹膜がありその下に腹腔(内臓)という構造になっています。

術野
     ▲左:切開線のイメージ図          ▲右:実際の避妊手術  


動物の皮膚は柔軟性が高くよく伸びるため
上のイメージ図のように皮膚の切開線は小さくしておき、処置を行う部位に合わせて
皮膚の切開線を移動させることができます。
(おなかを覗く窓自体をある程度動かせるイメージです)
筋肉などは丈夫で動きにくいため、皮膚の切開線より筋肉・腹壁の切開線のほうが
大きくなります。
その為、見かけ上の切開線は実際の切開線とは一致せず
「見かけ上の傷が小さいければ、先生の腕がよい」という
のは厳密には当てはまらないかと思います。
美観上小さな術創が望まれており、そのための技術が研鑽されていくことは
飼い主様にご満足を頂くために重要なことですが、そこだけを評価ポイントに
することは注意が必要です。
避妊手術はあくまで医療行為であり、きちんとした説明・フォロー・対応を行って
くれる,かかりつけ病院様を見つけていただけると幸いです。