膿皮症

膿皮症は犬の皮膚疾患の中でも1・2を争うほど発生の多い疾患であり、
細菌が皮膚で過剰に増殖することで症状が起ります。
ネコでの発生も犬ほどではないですが、多く認められ
臨床上非常に重要な疾患です。
近年、耐性菌の出現により難治性の膿皮症が
認められるケースが増えてていることが問題になっています。

手術難易度
膿皮症の概要

  膿皮症は皮膚の細菌感染による症状であり、
  人や猫においても多く認められる疾患です。

しかし、他の動物種に比較して特に高い発生率(罹患率)が報告されており、
はっきりとした原因は特定されていません。
一説には犬の皮膚のpH(酸性やアルカリ性を表す指標)は他の動物よりも
アルカリ性であり細菌の繁殖が起りやすいと言われています。

膿皮症は様々な分類法があるのですが、最も多く用いられている方法として、
感染の起きている皮膚の深さによって分類する方法があります。

表面性膿皮症:皮膚表面で細菌の増殖が起き、二次的に皮膚表面に
          炎症が起ります。皮膚の内部で細菌感染を起こしていない為
          偽の膿皮症とも呼ばれます。
          臨床上、膿皮症とは呼ばず急性湿疹・間擦性皮膚炎とも
          言われます。

表在性膿皮症:皮膚の比較的浅い部分、表皮内や毛包上部・真皮上部など
          で細菌感染が起きたものを指します。

深在性膿皮症:真皮中層~深層で細菌が増殖したもの。
          表在性膿皮症・毛包炎から続発するものが多く
          稀に咬傷など続発するケースもあります。

膿皮症の分類
   ▲膿皮症の分類法
    膿皮症の起きた深さによって分類されます。     



犬の膿皮症は原発で発症するケースは稀で、アトピー性皮膚炎や
甲陽線機能亢進症・脂漏症などから続発する場合が多いです。
本来正常な皮膚であれば、細菌の感染を防ぐバリア機能が備わっており
細菌の異常な増殖などは起こりにくくなっています。

しかし基礎疾患などによって、皮膚のバリア機能が破綻すると
細菌が繁殖できる環境となってしまい膿皮症が発生します。

表在性膿皮症では黄色ブドウ球菌の仲間の菌が原因として多く、
深在性膿皮症ではブドウ球菌だけでなく、パスツレラ菌や真菌など
様々な菌が原因になることが報告されています。

膿皮症の症状




表在性膿皮症の症状

表在性膿皮症の多くが、中程度から重度の痒みと毛包炎の症状を示します。
毛包炎は毛包(毛穴)に一致した部位に赤色丘疹・嚢胞が認められます。
この毛包一致性の丘疹が多発し、周囲に炎症が拡大することでリング状の
表皮小環が現れます。

表皮小環は炎症が周囲に拡大しているのに対し、中心部が先に改善することで
辺縁部にリング状の皮膚症状が現れた所見です。
必ずしもリング状になるわけではなく、地図状とも表現されます。
また嚢胞が破裂することで、痂皮(かさぶた)となります。
さらに皮膚炎によって鱗屑(フケ)・色素沈着が所見として現れます。

表皮小環 毛包炎
   ▲左:表皮小環 右:毛包一致性丘疹
    表皮小環は中心部の皮膚が先に治ることにより
    リング状の症状になります。     


深在性膿皮症の症状

表在性膿皮症から続発し、より皮膚の深い部分で細菌感染が
起きることでフルンケル(癤:せつ)・フレグモーネ(蜂窩織炎:ほうかしきえん)
と呼ばれる症状が認められます。

癤:俗にいう「おでき」「面疔:めんちょう」であり毛包やその下部の脂腺に
化膿性炎症を引き起こしたもので、腫れと痛みを伴います。

蜂窩織炎:より深い皮下または筋肉・内臓周囲の組織(蜂窩織)に
生じた急性化膿性炎症を指します。腫れと強い痛みを伴います。

化膿による膿・浸出液・潰瘍を認め、重度の場合
足裏などの発生部位によっては痛みによる跛行(びっこ)や
食欲の低下・発熱を認める場合もあります。

深在性膿皮症
  ▲深在性膿皮症
   より深く皮膚が障害され
   出血・排膿・疼痛などを伴います。     


ただし上記の症状は典型例であり、膿皮症には併発疾患が関与している場合が
多いのため必ずしも典型的な症状が認められるとは限りません。
マラセチア性皮膚炎(脂漏症)の項目でも触れましたが、皮膚疾患は
他の疾患との併発によって原疾患が分からなくなることはよくあります。

膿皮症は菌自体は特殊なものではなく自然に存在するため、
原疾患に続発する形で元の病気を隠してしまいます。

 
 膿皮症の診断



表在性膿皮症

診断には皮膚症状(毛包一致性の丘疹・表皮小環)の確認と
感染細菌の確認が重要になります。
丘疹・膿疱・表皮小環の病変部から採材を行い
顕微鏡による細菌の確認細菌培養による菌の特定を行います。

また治療の抗生剤選択のため、抗生剤感受性検査を合わせて行う場合もあります。
皮膚の検査では細菌のより多い部分を狙って採材を行う必要があるため、
膿瘍の膿を採取したりかさぶたを剥がして検査を行います。

観察のポイントとしては

球菌の確認:膿皮症の多くは球菌が原因であり、
        桿菌が認められることは少ないため

好中球の球菌貪食像:皮膚細菌を好中球が貪食することで自らの
              免役機能によって感染からの回復を図るのですが、
              その様子が確認できる場合があります。

好中球の変性:細菌と好中球が戦うことによって好中球は
          その役割を果たすと細胞が壊れてきます。
          壊れた好中球を確認できる場合があります。

                    などが挙げられます。

好中球の貪食像
   ▲好中球の貪食像所見
    細菌が好中球によって取り込まれ
    免疫による反応を顕微鏡で観察します。     


深在性膿皮症

病変部より滲出物・膿などを採取し顕微鏡検査を行います。
球菌・桿菌・真菌などの原因菌の確認を行い、
深在性膿皮症では様々な菌が原因のケースがあります。
また異物から膿皮症を引き起こしている場合も考慮する必要があります。

膿皮症の治療

治療としてはまず第一に細菌の抗生剤による除去が挙げられます。

抗生剤の選択としては、まず原因として最も多いグラム陽性球菌の
S.pseudintermediusに有効な抗生剤を用いることが多いです。
黄色ブドウ球菌の近縁です。)

2週間程度抗生剤を使用したうえで、効果の確認を行っていきます。
改善が認められる場合、継続して治療を行うのですが、改善が無い場合
現在使用している抗生剤が有効でない可能性が考えられます。
(原因細菌が異なる可能性や耐性菌の可能性)

この際に感覚的(先生のカン)に抗生剤を変更する場合もあれば、
細菌培養を行い抗生剤感受性試験を行いどの抗生剤が効くかを
調べたうえで変更する方法があります。

このように記載すると、調べてから変更するほうが良いかと
思われるかもしれませんが、実際は検査には費用が掛かるため
何度か変更してみるケースも少なくありません。
(抗生剤はそこまで高くないので、変えてみて効くかどうか判断したほうが
お手軽な場合が少なくありません。)

深在性膿皮症の場合、原因細菌が稀なケースもあるため
その菌を特定できる特殊な組織検査が必要な場合もあります。

サリチル酸シャンプー ベンゾイルシャンプー



またシャンプー療法も効果的です。
クロルヘキシジン・過酸化ベンゾイル・乳酸エチルなどが抗菌成分として
配合されており、殺菌効果に加え物理的に体表の細菌を洗い流すことができるため
自宅での治療の一環として飼い主様に行っていただくことも多いです。

硫黄サリチル酸:殺菌・角質溶解作用・毛包洗浄作用
          脱脂作用が小さいため
          皮膚への刺激も小さいとされています。

過酸化ベンゾイル:角質溶解作用・毛包洗浄作用・抗菌作用があり
            脱脂作用が比較的強く、脂漏症などの併発症例へ特に有効
            皮脂の少ない症例へは皮膚刺激がある場合もあるとされます。

シャンプーの際に注意いただきたいポイントとして
シャンプーを行う際十分に地肌に成分が接触できるよう
揉みこんでおき5~10分程度時間を置くことが重要です。
これによってシャンプーに含まれている有効成分が十分に効果を
発揮できるようになります。

またシャンプー後のすすぎも非常に重要です。
シャンプーの洗い残しがある場合、皮膚炎の原因となってしまい
却って悪化させてしまう可能性があるため飼い主様に自宅でシャンプーを
行っていただく場合、シャンプー指導を行うこともあります。

シャンプーは皮膚の油分を取り去ってしまう為,乾燥肌の症例では
却って皮膚の乾燥が助長され、痒みの原因となってしまうこともあります。
適度な皮膚の油分は皮膚の免疫機能に重要な役割を果たすため
乾燥肌の場合、シャンプー後に皮膚の保湿剤などを使用することで
皮膚のバリア機能を高めることができます。

さらに併用薬として塗り薬などの外用薬を併用するケースもあります。
外用薬には抗生剤が配合されており、油分が配合されているため
潰瘍部などの創傷保護の観点からも有用です。
外用薬を使用した場合、舐めとってしまわぬようエリザベスカラーや
服などを着せて病変部の舐め壊し防ぐことも重要です。

深在性膿皮症の場合、上記の治療法を行いつつ
(シャンプーは痛みが強い場合などは行いません)
病変部が深く消毒薬による感染の防御や
デブリードマンなどの外科処置を行うこともあります。

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膿皮症の中でも表在性膿皮症について記載していきます。

表在性膿皮症のポイントは「耐性菌」です。
耐性菌による感染を疑うような場合、抗生剤感受性試験を行い
有効な抗生剤を調べていくのですが、多剤耐性菌といって
複数の抗生剤に対して耐性を認める場合があります。

このような症例では治療の選択肢が少なくなり、有効な抗生剤が
体に合わないような(下痢や嘔吐など副反応が出てしまう)場合、
治療が非常に難しくなってしまいます。

正直なところ耐性菌を直接的に解決する方法はなく、
これ以上不用意に耐性菌が生まれないようにするといった
対応を行うしかありません。
具体的には抗生剤の用法・用量を正しく使うことやきちんと細菌を
死滅させるまで治療を続けるなどが挙げられます。
(中途半端に治療をやめて生き残った細菌が耐性を獲得するため)

膿皮症では症状が見かけ上収まっていても、最低一週間程度抗生剤を
継続することが推奨されます。その為、抗生剤は先生の指示に従い治療を
行いましょう。