膝蓋骨脱臼

膝蓋骨脱臼は膝のお皿(膝蓋骨)が脱臼してしまう疾患です。
小型犬での発生が多く、動物病院においても日常的に認められる疾患です。
重症度によって大きく治療が異なってくる疾患であり、
正しく理解していただくことが重要になります。

手術難易度
概要

膝蓋骨脱臼はその名の通り、膝蓋骨(膝のお皿)はあるべき場所
(滑車溝といいます)から外れてしまった状態を指します。

膝関節の構造 正常な膝 脱臼 膝蓋骨
▲右:正常な膝関節の構造 真中:MRIで見た膝の構造 左:膝蓋骨脱臼の犬のX線画像
 Wikipediaより

小型犬で圧倒的に多く、そのほとんどが先天性です。
(大型犬の12倍の発生リスクがあると言われており、日本では小型犬が多いのため
非常によく見かける疾患です。)
原因としては、膝蓋骨が収まっている滑車の溝が浅く膝蓋骨が外れ易かったり、
靭帯や筋肉の構造が関与しているとされています。
一般的に内側脱臼(膝蓋骨が内側に脱臼)が多く、約50%の症例で両側性です。
やや雌のほうが発生が多いとの報告もあります。

症状

跛行(びっこを引く)・後肢の挙上痛みなどが一般的です。
他の整形疾患と異なり膝蓋骨脱臼が特徴的な点として

症状が間欠的(症状が現れたり収まったりすること)に認められることがあります。
軽度の膝蓋骨脱臼の場合、膝のお皿は何度も外れたり戻ったりを繰り返しています。
症状が現れるのは、膝のお皿が脱臼している時なので、びっこを引いていると思ったら
直後に元気に遊んでいるといった症状が認められます。
本当に軽度の場合では、脱臼している状態でも飼い主様が症状に気づかないケースが
ある一方、症状の重い子では歩行自体を嫌がるケースもあります。

診断  

 診断は非常に簡単です。触診をすれば脱臼の有無がわかりますし、
 レントゲン撮影を行うことで関節の状態を捉えることができます。

膝蓋骨脱臼は重症度によって以下の4段階に分類されています。

グレード1:通常時での脱臼は認められない。
      手で圧迫することで脱臼させることができる。
      圧迫を解除すると自然に脱臼は収まる
      クリック音や骨変形はなく、症状は認められないor稀

グレード2:膝蓋骨は不安定で膝を曲げている段階では脱臼するが、
      手で戻すことができる。
      痛みは軽度、関節は軽度の変形を認める。
      日常生活には支障がない場合が多い。

グレード3:常に膝蓋骨は脱臼状態。用手にて整復は可能だが
      再び脱臼状態に戻ってしまう。
      関節の変形も重度になり、明らかな跛行や痛みを認める。

グレード4:膝蓋骨は常に脱臼。用手による整復は不可。
      関節の変形も重度になり、O脚/X脚のような外観になる場合も
      連続した跛行・痛み・後肢の挙上が認められる。

 以上のグレード分類は治療法の選択おいて重要になります。

 
治療

治療法は大きく内科と外科に分かれており

内科療法には
 ・減量(ダイエットを行い、膝への負担を減らす)
 ・サプリメント(膝関節によい栄養を採る)
 ・非ステロイド性消炎鎮痛剤(ロキソニンのような痛みと炎症を抑える薬)
 ・安静(膝の痛みが治まるまで、負担をかけない)
 などが選択されます。
 どれも根本的な治療法ではなく、あくまで症状の軽減・再発の防止が主たる目的です。

 一方外科療法では

 ・滑車増溝術(膝蓋骨の収まっている溝を深くして、外れにくくする)
 ・脛骨移転術(膝蓋骨の靭帯の角度を変え、外れにくい方向へ調節する)
 ・大腿骨矯正骨切術(骨変形などの矯正を目的として行われます)
 ・内側大腿膝蓋筋膜の開放
  (膝蓋骨を内側に引張ている筋膜を切ることで、脱臼しにくくします)
 ・外側大腿膝蓋筋膜の縫縮(強化)
  (膝蓋骨を外側に引張ている筋膜を縫い縮めることで、外側に引っ張り
   脱臼しにくくします)

などなど様々な手法が考案・実施されています。
一つの方法だけでなく、組み合わせて行われる場合もあります。
手術の必要性及び選択には対象動物の年齢、種類、併発疾患、グレードなどを
勘案して決定を行います。

ポイント

この項目では手術の必要性および術法について触れていきます。

仮に手術を行うことを前提とした場合、できるだけ早期に行ってあげたほうが、
手技も簡単で済み、術後成果もよい場合が多いです。
(重度に変形した場合では、完治できない場合もあります)
しかしながら、膝蓋骨脱臼が認められたすべての症例で症状が悪化するとは限りません。
同じ膝蓋骨脱臼でも進行度合いはそれぞれで、症状の悪化が認められない症例もいます。
そもそもある程度高齢になってくると、膝蓋骨脱臼以外の整形疾患が認められたり
単純に活動性の低下が起るため手術の有用性は下がります。

その為、手術を行うかどうかは、飼い主様のお考えが大きく影響します。
一般的に獣医師が手術をお勧めする状況としては、

・症状が認められており手術を行わないと進行が予測される
              &
・比較的若齢で手術後の活動性が高く手術によるメリットが大きい


の条件に当てはまる場合が多いです。
しかしながらあまりに若齢の場合、骨切り術など骨へアプローチする手術の場合
その後の骨や関節の成長に影響が現れる場合があり、注意が必要になります。

以上のことから膝蓋骨脱臼の手術に関しては獣医師とよく相談の上、
十分ご理解の上行われることを推奨いたします。