マラセチア性皮膚炎(続発性脂漏症)

マラセチア性皮膚炎はマラセチアという真菌(カビの一種)の感染に
起因する皮膚炎です。マラセチアは健常犬でも認められる常在菌ですが、
異常な菌の増殖により症状が発現します。
犬の体質・基礎疾患が関与する為、再発も多く管理の難しい疾患です。

治療難易度

マラセチアは皮膚にもともと存在している真菌(カビ)ですが、
すべての仔が症状を発症するわけではありません。
発症には何らかの原因により、真菌の異常増殖を引き起こしていること

が考えられています。
代表的な誘因として、①アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患
②脂漏症など皮膚角化異常を持つ症例③好発犬種(バセット・ハウンド :シーズー:チワワ:ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア:ダックスフント:
スプリンガー・スパニエルなど)④別の皮膚疾患などがあります。
マラセチアの増殖に伴い炎症を引き起こし、症状を引き起こします。

マラセチア皮膚炎は人にも認められる疾患ですが、人のマラセチアと犬のマラセチアは
別種であり、免疫力の低下している場合などを除きうつる心配はありません。
同様に犬同士での感染ですが、マラセチアの感染には体質や基礎疾患が大きく関与しているため、 素因がない場合はうつることはあまりありません。

マラセチアに伴う症状は①悪臭(脂漏臭:特徴的なにおい):
菌の増殖により皮脂の分解が行われ、遊離脂肪酸が生成されます。

この遊離脂肪酸は炎症を引き起こす要因になります。
ベタつき(続発性脂漏)③激しい掻痒(かゆみ)④紅斑脱毛
苔癬化:炎症や痒みによる掻き壊しを繰り返し、皮膚が硬く肥厚した状態
(写真参照)⑦色素沈着などがあげられます。

外耳炎 皮膚苔癬化 指間 皮膚炎
▲マラセチアで認められる症状
 右から外耳炎・皮膚苔癬化・指間皮膚炎
 Wkipediaより


 診断の項目でも触れますが、マラセチア性皮膚炎では別の疾患が
 関与しているケースが多く、重症例では症状が重複していることが
 少なくありません。
 また耳も皮膚の一部であるため外耳炎を併発するケースも多く認められます。
 好発部位としては皮膚の中でも湿気の多い部分、耳(耳介)・腋窩(わきの下)
 皮膚の雛壁(しわの間)・腹部腹側(おなかの下)などが挙げられます。

診断  

 マラセチアの感染自体は比較的簡単に見つけることができます。
 特徴的な匂いがしますので、特殊な検査を行わずとも
 健康診断時に発見するケースもあります。

 マラセチア自体は皮膚分泌物や耳垢などを顕微鏡で観察することで確認できます。
 特徴的なダルマ(もしくはボーリングのピン)のような形をしています。

 マラセチア菌体:Wikipediaより

マラセチア  


しかしながら「マラセチアの確認=診断」ではないことに注意が必要です。
先に述べたようにマラセチアは健常犬でも確認できますし、そもそも皮膚疾患において
重要なポイントは原疾患(一番最初の原因)を確認することです。
アトピー性皮膚炎や別の疾患が別にある場合、いくらマラセチアの治療を行っても
根底にある原因は解決していないため、何度もマラセチアの再発が起ります。

また皮膚疾患全体に言える問題なのですが、重度になるほど原疾患の特定が
難しく
なります。
一般的に皮膚炎の症状は
皮膚の湿疹・丘疹・発赤など→痒み掻き・舐め壊し脱毛苔癬化
というような流れをたどります。
脱毛や苔癬化のように重度に進行した場合、元の疾患は分かり難くなります。
(特徴的な所見は、皮膚の湿疹・丘疹・発赤などの皮膚疾患の初期で認められることが多いため) その為、診断は治療を行い、その反応を見ながら一つ一つ問題の解決を行っていく場合が多いです。

 
治療

マラセチアの治療は
抗真菌薬:ケトコナゾール・イトラコナゾール・などの有効成分
シャンプー療法:有効成分入りのシャンプー

が挙げられます。
またマラセチアの背景には別の疾患が隠れているケースが多いため
食餌療法:もともと脂漏症の症例には低脂肪食、食物アレルギーの症例には
低アレルゲン食などが用いられます。
原疾患への治療:もともとの病気の治療を行います。
背景となっている疾患は多岐に渡るため併用する治療法は様々です。

また一度症状が認められた症例は治療によって良化した後も
再発を繰り返さないよう、予防的な対応が必要になるケースもあります。
定期的なシャンプー・食事の変更・ごく低用量での抗真菌薬の投薬
などが挙げられます。

獣医師の本音

マラセチアは獣医師にとってかなり厄介な疾患の一つです。
動物病院においては頻繁に認められる症例であるため、
治療によって良化する症例も多いのですが、

反面、何度も再発を繰り返し、治療を必死に行っても症状が進行し
皮膚がガチガチに苔癬化してしまう症例も認められます。
よく認められる疾患だけに獣医師にとっても頭を抱えるケースの多い疾患です。

特にアトピー性皮膚炎など完治が難しい疾患が背景にある場合、
マラセチア自体はどこにでもいる菌なので何度も感染を引き起こします。
何度もぶり返すうちに次第に皮膚は脱毛・苔癬化、犬は痒みにより一日中痒がって、
最後には飼い主様のほうが心が折れてしまうといったことが起る疾患です。

皮膚疾患により大学病院(2次診療)を受診するケースは少なくありません。
パーセンテージでは少ないのですが、全体の症例が多いため
場合によっては専門医の先生に受診することも検討が必要です。

また治療に関してですが、上の項目で原疾患の特定が重要であると述べました。
もちろん原疾患の特定は必要なのですが、複数の皮膚疾患が重なっているため
すぐには特定できない場合も多々あります。
そのような場合は、特定できている疾患を一つ一つ治療することで
症状が落ち着き、原疾患がわかりやすくなる場合が多いです。
マラセチア自体の診断は簡単なため、まずはマラセチアの治療→落ち着いたところで検査
という流れが行われます。

皮膚疾患に関しては長い目でしっかりとした治療を行っていくことが重要になります。