水頭症

水頭症とは脳脊髄液の産生増加・吸収&排泄不全・循環障害に よって、脳室内(脳の内部)やくも膜下腔(頭蓋骨と脳の間) に脳脊髄液が貯留する病気です。脳脊髄液の貯留によって脳圧の上昇を引き起こし、 様々な神経症状を引き起こします。先天的な症例が多く、チワワやヨークシャーテリア などの好発犬種では注意が必要です。

手術難易度
水頭症の概要

動物の脳の周囲および内部は、脳脊髄液で満たされており脳への
衝撃を緩衝し、栄養供給・老廃物の排泄にも関与しています。

水頭症
   ▲人の水頭症のイメージ。
    脳室内に脳脊髄液が溜まり脳を内側から
    圧迫しています
    Wikipediaより


脳脊髄液の量は産生と吸収のバランスによって、絶えず一定に保たれています。
しかし何かの異常によって脳脊髄液が過剰に貯留してしまった状態、
これが水頭症です。
過剰な脳脊髄液によって脳圧が亢進することで、脳が圧迫された状態になり、
様々な臨床症状が認められます。

水頭症にはいくつかの分類法があるのですが、
代表的な区分として、

先天性:生まれつきの脳室(脳の内部にある脳脊髄液によって
     満たされているお部屋のようなもの)の形成異常(奇形)に
     よって発生します。水頭症の大部分を占めており、
     遺伝的な影響が示唆されています。
     チワワ・ヨークシャーテリア・ボストンテリア・トイプードル・
     ポメラニアンなどの犬種で多く認められます。

後天性:後天的な脳疾患(脳腫瘍や脳炎など)によって
     脳脊髄液の循環・吸収が妨げられることで
     二次的に発生したものを指します。


内水頭症:脳室(脳の内部に)脳脊髄液が貯留するタイプです。
      犬猫の水頭症の大部分を占めています。

外水頭症:くも膜下腔(脳の外側)に脳脊髄液が貯留するタイプです。
      犬猫では稀です。

などの分類があります。
実際の小動物臨床現場では、先天性の内水頭症がほとんどを占めています。

症状

 先天性の場合、頭蓋内圧の上昇によって
 頭蓋冠の拡大など顔貌の変化が認められます。

水頭症の犬 斜視の犬
   ▲左:水頭症の犬の外観
      頭が大きく特徴的な顔つきが認められます。
    右:斜視の子犬の画像
      外斜視が認められます
    

また先天性の水頭症では、正常犬とくらべ発育不良によって
しつけをなかなか覚えない、ぼーっとしていて反応があまりない
といった相談から水頭症を発見する場合があります。

一般的に認められる症状では
脳の圧迫によって、斜視・てんかん発作・性格や行動の変化・
旋回
などの神経症状が認められます。
水頭症と脊髄空洞症(脳だけでなく脊髄の内部にも脳脊髄液が溜まる病気)
が併発した場合、起立困難や四肢麻痺などの症状が認められるケースも
あります。
後天性の場合、これらの症状に加え
元の疾患(脳腫瘍・脳炎)に応じた症状が現れます。

▲水頭症による神経症状を呈した子犬
 起立・歩行困難などが認められます。
 youtubeより

 
 水頭症の診断

 水頭症の診断としては、脳脊髄液の貯留
 それに起因する神経症状の確認を行います。

犬の脳MRI脳MRI比較
   ▲左:正常犬の脳MRI
      縦断像(縦に脳を切った状態)です。
      白い部分が脳脊髄液を示しています。
    右:正常犬と水頭症の犬の比較
      一番左が正常犬、一番左が水頭症の犬です
      白い部分(脳脊髄液)が明らかに多いのが分かります。     

(なおかつ別の神経疾患の除外も行います)
脳脊髄の貯留は画像検査を行い、脳室の拡張を調べることで確認できます。
チワワなどの場合、頭蓋骨が完全に閉じておらず、頭蓋骨の隙間から
超音波を当てることで、脳の状態を捉えることができる場合があります。

生まれて間もない動物では、頭蓋骨はいくつかの骨に分かれており、
成長に伴って骨同士がくっつくことで隙間が埋まり、一つの骨になります。
この頭蓋骨の隙間を「泉門」いい、チワワなどではこの泉門が
開いている症例がいます。
この場合麻酔を用いずに水頭症の診断を得ることができます。

しかし、超音波検査はすべての症例で使用できるとは限りません。
(超音波は骨に隔たれた部分は調べることができないため、
泉門が開いていない場合使えません)
そのような場合、CT・MRIを使用して脳の状態を調べる必要があります。
撮影にはどうしても時間がかかるため、麻酔が必要となり
費用・リスクが高くなってしまうという問題点があります。

 
てんかんの治療

治療法は大きく外科療法と内科療法に分かれます。
外科療法としては「VPシャント」という術式が選択されます。

過剰な脳脊髄液をチューブを設置し腹腔(おなかの中)に流すことで,脳圧を
正常に下げることが可能となります。ただし、水頭症の手術に関しては
費用・リスクの問題やシャントチューブの閉塞による再発などが懸念されますので
もしも手術を検討される場合、専門病院様へのご相談をお勧めします。
(一般的な動物病院では対応していないことが多いです)

水頭症の治療において一般的に行われているのが、内科療法です。
脳圧を下げたり、脳脊髄液の産生を抑える薬やてんかん発作などが認められる場合、
抗てんかん薬が使用されます。

イソソルビド:利尿薬の一種で脳圧を下げる働きがあります。

グリセリン:利尿薬の一種で脳圧を下げる作用。

プレドニゾロン:ステロイドで脳脊髄液の産生抑制・吸収促進作用があります。

D-マンニトール:急性の脳圧亢進時や術後に用いられ、
           脳圧を下げる(細胞から水分を奪う)作用が強く
           脳浮腫などでも使用されます。

抗てんかん薬:てんかんの項目を参照

                          などのお薬が代表的です。
  

  
イソソルビドグリセリン
   ▲左:イソソルビド
    右:グリセリン     

治療の流れとしてはまず内科療法を行い症状が緩和できない場合、
外科療法を検討し、飼い主様の希望があれば専門病院へ紹介するという
ような形をとることが多いです。

てんかんへの獣医師の本音

水頭症をはじめ脳腫瘍・脳炎など
脳神経疾患すべてに言えることですが

検査の(麻酔の)リスクが高いという問題点があります。
(麻酔から覚めなかったり、麻酔中に異常が起きやすい)
飼い主様にとって「検査のためにリスクを取る」という
ことは非常に受け入れがたいケースが多いです。

手術の場合は「うまくいけば病気が治る」というメリットがあるのですが
検査の場合に得られるメリットは「診断がつく」であり、その病気が治るか
どうかは診断後初めてわかる事になります。
その為、「命の危険を冒してまで、診断行うメリットはあるのかどうか?」
という点で飼い主様は非常に悩まれます。

残念ながら獣医師としても診断がつかなければ、治療や今後の経過の見通し
もつかないのできちんと説明の上、飼い主様に決断をお願いしています。
このような際にはセカンドオピニオン専門医への紹介制度なども
検討できるポイントですので気になる方は先生にご相談ください。