ニキビダニ(アカラス)

ニキビダニ症(別名:アカラス、デモデックスなど)は犬において
非常に多く認められる皮膚疾患の一つです。
ニキビダニ自体は常在寄生虫であり、発症の背景には
皮膚の免役低下や別の疾患などの存在が認められることもあります。
猫では稀な疾患であり認められた場合には、別の背景疾患を
考慮する必要があります。

手術難易度
ニキビダニの概要

ニキビダニ症は非常に別名が多く、通称としてアカラス
学名のDemodex(デモデックス)、毛包虫などがあります。

人のニキビダニ症(顔ダニ)と同じ科の同属なのですが、種が異なるため
基本的には犬のニキビダニが人に感染することはありません。
(人のニキビダニが犬に感染することもありません)
犬に感染するものではDemodex canis(canisは犬を表します)
猫ではDemodex catiとDemodex gatoiなどの感染が認められます。

ニキビダニ ニキビダニ症
   ▲ニキビダニ(毛包虫)の顕微鏡画像     



ニキビダニは常在寄生虫であり、皮膚に問題のない動物でも認められます。
健常な動物では、ニキビダニは一定数以上に増殖することはなく
毛包内で皮脂腺・角質などを餌にしており、炎症を引き起こすことはありません。
一般に生まれてから72時間以内に親犬などから伝播すると言われています。

皮膚症状を引き起こす症例では免疫などに問題があり、皮膚のバリア機能などが
損なわれることでニキビダニの異常増殖が起り、皮膚症状を引き起こすと
されています。

その為、ニキビダニ症が認められた場合、その背景となるような
疾患(糖尿病・クッシング症候群・甲状腺機能低下症)なども合わせて
検査を行うことが重要です。

また猫の場合、ニキビダニ症自体が稀であり犬と比較して発生の原因など
明らかではない部分が多いです。
犬においては体質や基礎疾患など個体ごとの影響が大きく、同居犬へ
感染することはほとんどないのですが、猫の場合(D.gatoi)は猫同士で
感染
することが指摘されており、同居猫への治療も合わせて行われます。

ニキビダニの種類によって若干見た目が異なり、体長(お尻の部分が短い種類)が
違うのですが治療に関しては大きな違いはありません。

症状

症状としては皮疹・発赤・脱毛・鱗屑(りんせつ)などに
始まり、炎症による皮膚の色素沈着や細菌の二次感染を併発し
毛包炎などが認められます。

犬のアカラス(ニキビダニ) 猫のアカラス(ニキビダニ)
   ▲ニキビダニ症の犬と猫
    慢性化によって全身の脱毛と皮膚症状が
    認められます。     

何度も再発したり長期化することによって皮膚の苔癬化(硬くガチガチ
になってしまう)が認められます。犬では四肢・頭部・頸部などに好発し、
軽度の場合には体の一部(局所)のみに症状が認められます。
重症例では全身性に症状が認められます。

犬のニキビダニ症は若齢性・成犬発症性に分けて考えられます。
若齢性とは生後18か月以内に発症したものであり、発症には先天性の
免疫異常などの可能性も考えられます。ただし軽度の場合、成長に伴い自然に
回復するケースもあります。

一方、成犬では内分泌疾患や体質などが関与している場合が多く
なかなか改善しないケースも多いです。また体質や基礎疾患の関与が
多いため、一度改善しても再発する場合もあります。


猫の場合、D.catiでは目の周囲・頭部・頸部で通常痒みがない
脱毛・落屑が認められます。重症例では皮疹が四肢・体幹部にも認められ
色素沈着・痂皮(かさぶた)が認められることもあります。

対してD.gatoiでは強い痒みが認められ四肢・下腹部などに舐性行動
(舐めまわす)により裂毛(毛が途中で切れてしまう)が生じます。
このため猫では感染したニキビダニによって異なる症状が認められます。

 
 ニキビダニの診断

 診断としてはニキビダニの検出と臨床症状の確認を
 合わせて行います。    

ニキビダニの検出には皮膚掻把検査が最もよく行われます。
皮膚を鋭匙(縁が尖っているスプーンみたいな器具)によって削る
(掻把する)ことで皮膚の深いところにいるニキビダニも検出する
ことが可能です。また被毛を引き抜き毛根の部分を顕微鏡で観察することで
検出することが可能な場合もあります。(抜毛検査

鋭匙
   ▲鋭匙の画像
    縁が鋭く尖っており、皮膚を削りながら
    削り出したものを顕微鏡で観察します。     

この際、飼い主様に覚えておいて頂きたいポイントとしては
皮膚掻把検査では深い部分の皮膚を削ってニキビダニがいるかどうか
確認する検査なので、出血する程度まで削らないといけません。
皮膚は擦り傷や切り傷に近いような状態となるため
飼い主様にはその点ご理解していただく必要があります。

ニキビダニの治療

  ニキビダニ(アカラス)の治療法としては
  まず第一にニキビダニの駆虫が挙げられます。

駆虫薬としてよく用いられる薬は

イベルメクチン:ニキビダニやフィラリアなどの神経・筋細胞に作用し
          過分極を引き起こすことで、信号伝達ができずに
          麻痺させることで駆虫効果を示します。
          注射・内服・塗り薬など重症度・皮膚病変の範囲に
          応じた投与経路を選択されます。

ドラメクチン:イベルメクチンと同様の作用機序をもち
         作用時間が長く注射時の痛み(沁みる)が少なく
         よく用いられるお薬です。

イベルメクチン・ドラメクチンはフィラリアの駆虫薬としても
よく用いられるのですが、コリー種の犬には注意が必要です。

動物の体には血液脳関門と呼ばれる機構が存在しており
血液を介して脳に向かう物質の通過を制限する働きがあります。
コリー犬種はこの血液脳関門の働きが弱く、イベルメクチンが
脳に影響を与え、神経症状を引き起こす可能性があります。

サリチル酸シャンプー ベンゾイルシャンプー


また補助療法としてシャンプー療法が挙げられます。
毛包洗浄を行うことで過剰に増殖した毛包虫自体を
減らすことができると同時に皮膚環境を改善することにも
つながります。(ただし過剰なシャンプーは逆効果です)

硫黄サリチル酸:殺菌・角質溶解作用・毛包洗浄作用
          脱脂作用が小さいため
          皮膚への刺激も小さいとされています。

過酸化ベンゾイル:角質溶解作用・毛包洗浄作用・抗菌作用があり
            脱脂作用が比較的強く、脂漏症などの併発症例へ特に有効
            皮脂の少ない症例へは皮膚刺激がある場合もあるとされます。

などの成分を配合した薬用シャンプーが使用されます。
さらに二次感染の治療・予防として抗生剤の投与が行われます。

ニキビダニ症 獣医師の本音

  多くの皮膚科疾患に言えることなのですが
  ニキビダニ症では個々の体質が影響しており

治療を行ってもなかなか良化が得られなかったり、再発を繰り返すケースが
非常に多い病気です。そもそも、ニキビダニはほぼ100%の犬に寄生しているため
予防や感染防御という方法は現実的に不可能です。
その為治療に関しては、一度改善したように見えても念のために長期間にわたって
投薬を行い、体質改善などを合わせて行うことも重要です。

文献上では局所性のニキビダニ症の多く(90%)は、6~8週間程度で
自然に回復し特に若齢性ほど良好であることが報告されています。
逆に適切な治療を行ってもこの期間で改善しない場合、慢性化する
恐れがあり飼い主様に治療が長期化する可能性をお伝えする必要があります。

またシャンプー療法ですが治療に合わせて、毛刈りを行って
(地肌をしっかり洗えるようにするため)飼い主様にご自宅でシャンプーを
行っていただく場合もあります。
この際に注意が必要なのが、シャンプーの際には「すすぎ」が
非常に重要です。浴用シャンプーは比較的刺激が強いものが多く
すすぎが不十分だった場合、却って皮膚炎の原因となってしまいます。
洗い残しが無いようしっかりと洗い流しましょう。

またシャンプーの頻度も重要です。脱脂作用によって皮膚の油分が
奪われすぎてしまうと却って皮膚の防御機能が低下してしまいます。
その為、シャンプーの種類および頻度に関しては獣医師の支持を
受けることをお勧めします。