免疫介在性溶血性貧血(IMHA)

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)は自己免疫によって
赤血球が破壊されていまい貧血に陥ってしまう免疫疾患です。
犬より猫で多く認められ、死亡率が高いため注意が必要です。

手術難易度
IMHAの概要

動物の血液中には免疫に関与する細胞や抗体・補体
(免疫細胞や抗体の働きをサポートする物質)が含まれており、

正常では外部からの異物(細菌・ウイルス・寄生虫など)を排除する重要な働き
を持っています。通常では免疫機構は自己組織へは反応することが無いのですが、
免疫介在性溶血性貧血では自己免疫が赤血球を標的とすることにより
赤血球の破壊・貧血を引き起こします。このように赤血球が壊されることを
溶血」といいます。

コッカースパニエル  プードル



犬は猫よりも多く発生が認められ、コッカー・スパニエルやプードルで
好発することが知られ、雄よりも雌のほうが2~4倍発生が多い
言われています。犬では特発性が多いのに対し、猫では猫白血病ウイルス・
ヘモバルトネラなどの感染による二次性のものが多いです。

症状

 症状としては貧血によるふらつき元気食欲の低下などの
 症状に加え、黄疸可視粘膜の蒼白血色素尿頻脈

粘膜蒼白の犬 黄疸の猫
   ▲左:貧血の犬
      粘膜蒼白で虚脱状態になります。
    右:黄疸の猫
      激しい溶血によって粘膜が黄色になります。     

呼吸速迫などが挙げられます。発熱脾臓腫大肝臓腫大が認められる
場合もあります。

またごくまれにですが「エバンス症候群」を引き起こすことがあります。
エバンス症候群とは「免疫介在性溶血性貧血」と「免疫介在性血小板減少症」
を併発した状態で、この場合さらに死亡率が高くなります。

 
 IMHAの診断

   免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の診断には

①溶血を伴う貧血

   血液が赤く見えるのは赤血球の中にあるヘモグロビンが赤いためで、
   血液から血球を除いた液体成分(血漿)は本来無色透明です。
   赤血球が破壊されると、内部の赤色成分(ヘモグロビン)が血漿中に
   溶け出します。その結果、溶血が起きている場合、血漿が赤く見えます。

溶血した血液 溶血した血液
   ▲溶血した血液の画像
    血液から血球を除いた液体(血漿)は正常であれば無色です。
    溶血した場合、この血漿が赤く見えます。     



球状赤血球:正常赤血球は中心部が凹んだ特徴的な形状をしています。
         免疫によって赤血球が障害されると、形状が変化し
         球状の赤血球になります。

血球イメージ 球状赤血球
   ▲左:正常な血球の形態
      一番左の赤いものが赤血球です
    右:球状赤血球
      中央部のへこみがなくなり球形になります。
      正常な赤血球は中央部が凹んで薄いため白く見えますが
      球状赤血球では白い部分が認められません。
    

赤血球の自己凝集:赤血球に抗体が結合することで白血球による
             貪食(処理)が誘導されます。抗体には複数の抗原を
             捉える働きがあり、赤血球同士が抗体によって
             連結された状態になります。これを凝集といいます。
             (免疫反応の一つで適合しない輸血を行った
             場合なども発生します)

正常血液塗抹 血液凝集
   ▲左:正常な血液
      赤血球同士が離れています。
    右:凝集した血液
      抗体が接着剤のような働きを果たし
      血球が互いに結合しています。     


直接クームス試験陽性:赤血球表面に抗体が存在しているかどうか
               を調べる試験。

                の中から一つ以上の所見

③他の溶血を引き起こす疾患の除外

   (玉ねぎ中毒・低リン血症・腫瘍など)
   またヘモバルトネラやウイルスの感染についても考慮します。

以上の3つの項目を満たすことで行われます。

 
IMHAの治療

犬における重篤な急性のIMHAでは死亡率が高く(30~80%)、
貧血だけでなく併発したDIC(播種性血管内凝固)や血栓による

ものが多いと言われています。血栓によって多臓器不全(特に肺動脈血栓塞栓症)
を引き起こし、死に至ります。黄疸や血中ビリルビンの高値・血小板減少などが
認められる場合にも死亡率が高くなることが示されています。

その為、急性期においては入院管理下にて抗血栓療法を行います。
安定状態に移行した症例や慢性的な経過の症例では通院管理が可能となります。


急性期対応

 ・輸血:貧血の進行が激しく生命の危険がある場合実施を検討します。
      IMHAの症例では、輸血反応が起きやすい可能性が指摘され、
      (もともと自分の血液にも免疫が反応してしまう病気であるため)
      輸血を行う場合、検査を行い慎重に実施します。

 ・抗血栓療法:ダルテパリンナトリウム・アスピリンなど
         血栓を溶かし、形成を抑える働きを持ちます。

 ・ステロイド:免疫抑制量で使用し、自己免疫による
         溶血を防ぐ働きがあります。

 ・免疫抑制剤:シクロスポリン・アザチオプリンなど
         免疫を抑えることで、自己免疫による
         溶血を防ぎます。
         効果が安定的に発揮されるまでに通常数週間
         必要なので、継続して投与を行っていきます。

 ・免疫グロブリン製剤:自己免疫の中和作用や大量の免疫グロブリンを
              投与することで抗体や免疫細胞が免疫グロブリン
              の処理に消耗され赤血球の破壊が緩やかになること
              が考えられています。
              複数回の投与ではアナフィラキシーショックなどの
              恐れがあるため、一度きりの使用となります。

  このほか動物に余裕があれば、抗生剤・整腸剤などの併用を行います。

  

慢性期対応

 急性期対応が効果を示し、貧血がある程度改善してくると慢性期対応へと移ります。
 慢性期での対応は、急性期で使用した薬を可能な限り減量していくというものです。
 免疫抑制量のステロイドの使用は、副反応を誘発しやすいため、
 可能な限り減量することで長期的な管理を行いやすくします。

 血液検査を行いながら徐々にステロイドを減量していきます。
 ステロイドを減らす反面、免疫抑制剤を増量することで、免疫を抑える
 作用を維持しつつステロイドを減らす場合もあります。
 (お薬を段階的に減らしていくことを漸減といいます)
 異常が認められた場合、用量は速やかにもとに戻します。

 またステロイド・免疫抑制剤ともに減らせることが理想なのですが
 両方とも減らせるとは限りません。医学的には副作用の大きいステロイド
 を優先して減量していきたいのですが、費用的な側面では免疫抑制剤のほうが
 高価
という問題があります。
 その為、経済的な理由から免疫抑制剤を減らしステロイドを残すという場合も
 あります。(猫ではステロイドによる副反応が少ないとされ、犬と比較して
 長期使用しやすい特徴があります)
 また免疫抑制剤でも副反応は認められ、特に副反応の大きい症例では
 免疫抑制剤ではなくステロイドを残して使用します。その後、完全に離脱
 副反応の発生しない用量まで減量することが治療の目標になります。

IMHAの獣医師の本音


  獣医師から見た場合、非常に「怖い」疾患の一つです。

上の項目でも触れましたが免疫介在性溶血性貧血(IMHA)では、
急性かつ死亡率が高いため、「あっ」という間に症例が死亡してしまう
ケースが少なくありません。

元気がなく病院に連れてきたら、入院が必要な病気だと言われ
その日の夜に亡くなったということが現実に起こりうる疾患です。
その為飼い主様にとって受け入れがたい、疾患の一つです。
前日まで元気に散歩や食事していた症例も多いため「如何に危険な状態であるか」
ということに十分な説明が必要になります。

また、本当に初期の場合、血色素尿などの症状のみが認められ貧血は
認められていないケースもあります。明確な貧血が認められていたほうが、
かえって診断は容易です。
(貧血が無い場合、上記の「診断」項目に満たされず、IMHAの診断は難しい)
その為、膀胱炎などを疑い治療を行っていると、その後症例が救急来院する
ケースなどもあり得ます。この場合「病院に連れて行ったのに見逃されてしまった」
と思われ、獣医師にとって飼い主様の信頼を失ってしまう可能性があります。

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)は全体としては稀な病気であり、
獣医師によっては油断できない「怖い」疾患の一つです。