胃拡張・胃捻転症候群

胃拡張・胃捻転症候群は大型犬で多く、緊急疾患の一つです。
胃捻転が発生すると胃内で発生したガスや内容物が行き場を失い、
周囲の血管や組織を圧迫しショックを引き起こします。
致死率・再発率も高い怖い病気です。

手術難易度
HCMの概要

胃拡張・胃捻転症候群の明確な原因については明らかになっていない
のですが、一般的に胸の深い大型犬での発生が多いとされています。

ジャーマンシェパード グレートデーン


(グレート・デーン、セント・バーナード、ジャーマン・シェパードなど)
しかし日本においては圧倒的に小型犬の飼育が多く、ダックスフント
などの犬種での発生も認められます。

食後の発生が多いとされ、食後すぐに運動することがリスクになる可能性が
検討されています。「胃内にガスを発生させる食べ物がある」ことと
「運動によって胃が物理的に動くこと」などが考えられています。
また中・高齢犬では胃を体内に固定している靭帯などが緩んできて、
発生リスクが高まると言われています。

胃捻転の機序
   ▲胃捻転発生の流れ
   消化管の構造や運動により
   捻じれやすい方向が決まっています。     


発生すると死亡率が15~28%程度と報告されていますが、時間の経過に伴い
致死率は高くなるので、早期の発見が非常に重要な疾患です。
手術後3年以内の再発率が10%と言われており、手術を行ったからと言って
油断ができない病気でもあります。

病名上胃拡張・胃捻転がセットで扱われていますが
胃拡張と胃捻転では重症度が異なり、胃捻転まで引き起こしているような
症例では死亡率が高い印象です。

症状

胃拡張・胃捻転が発生すると胃内容物からのガスによって、
胃がパンパンに拡張します。 

胃の拡張・捻転によって、周囲の血管が圧迫され血流障害を引き起こし
血圧低下・心拍出量の減少を引き起こしショックを誘発します。
また胃腸が捻じれるため虚血・壊死を引き起こし
胃穿孔(消化管に穴が開いてしまう)、腹膜炎となります。
胃腸の機能障害から下痢・血便などが発生し、機能が回復するまで
持続します。

初期症状としてはソワソワと落ち着きを失い、よだれを垂らし
腹痛などが現れます。吐きたくても吐けない症状・ガスによる腹囲の
膨満を認め、進行に伴いショックを引き起こしぐったりしてしまいます。
(ショックによる血圧の低下・頻脈・呼吸速迫などの症状)

 
 HCMの診断

触診時では胃がパンパンに膨らみ、お腹を軽く指で叩くと
太鼓のような音が聞き取れます。   

   

胃捻転 胃捻転
   ▲胃捻転のレントゲン画像
    ガスでおなかがパンパンに膨らんでいます。
    (おなかの部分に溜まっている黒い部分がガスです)
    「ダブルバブルサイン」が認められた場合
    胃が捻じれていることを示唆します。     


確定診断にはレントゲン検査が用いられます。
胃内にガスの貯留を認め、レントゲン検査にて
胃が捻じれているかどうかの区別を行うことも可能です。

また血液検査を実施することで全身状態の判断を行い
予後判断・治療の助けにすることが可能です。

HCMの治療


治療をいくつかの項目に分けて解説をしていきます。

胃内のガス抜き・減圧

  胃拡張でねじれがない場合など口からチューブを胃内へ挿入しガスを抜き、
  減圧を図ります。しかし胃捻転が起きている場合チューブが挿入できない
  ケースもあります。
  そのような場合にはお腹から針を刺して、ガスを抜きます。
  超音波を用いることによって、周囲組織を傷つけることなく
  より安全に針を刺すことが可能です。

  チューブが挿入できた場合、可能であれば胃内容物吸引を行います。
  (食べ物が胃内でガスを発生させているため)
  ただし、チューブが詰まってしまい内容物の除去ができるとは限りません。

  胃拡張・胃捻転の予後は、いかに早く胃の拡張による周囲組織の圧迫や
  虚血を改善できるかにかかっているので、夜間手術に対応していない
  病院でもガス抜きを継続して行い朝一で手術を行ったりします。
  (スタッフがいない中、完全に一人で行うのはなかなか難しい部分があります)
  

胃捻転の整復手術

  胃捻転が起きている場合、開腹を行い胃の捻じれを元に戻す手術を行います。
  ガスを抜いておくことによって胃の余裕ができ、整復し易くなります。
  また胃の壊死などが起きている場合、その部分の切除を行います。
  (胃や腸の一部を血色などの組織の状態を見ながら、判断します。)

  一点、注意が必要なのが胃腸の血流障害は時間差で出てくるため、
  手術後7~10日程度油断ができません。胃捻転は整復できたが、胃腸の
  機能は回復できずそのまま亡くなってしまうこともあります。
  手術後一定期間、胃腸の機能は低下しているため
  絶食や流動食を行い徐々に食事を元に戻していきます。

  また胃整復を行った際に、胃を腹壁(胃の内側の筋肉)に
  縫い付けることで胃の固定を行います。
  これにより再発を防ぐことができるとされていますが、
  糸の強度低下によるものなのか、実際には100%予防できるとは限りません。

  また上記の治療と並行してショックの治療(低血圧・不整脈)胃腸機能の
  サポート、抗生剤による感染予防などが行われます。

 

予防

上記の通り、胃拡張・胃捻転症候群では再発が起りやすく致命的なケースが
多いため、一度発生した症例では予防を行っていきます。

 予防方法としては

 ・食餌を複数回に分けて与える:一度に大量の食事を摂ると
                胃が拡張しガスも発生しやすくなります。
                食餌を小分けにして与え、発生を予防します。

 ・食後一定時間安静にする:運動にって物理的な胃の捻じれの発生を防ぎます。

 ・ストレス:ストレス自体がこの病気を引き起こすわけではなく
       「呑気」と言って何度も空気を飲み込むことで
       消化管内によりガスが溜まりやすくなります。
       車酔いなど気持ち悪くなると呑気は増えます。

 ・胃腸疾患の治療・サポート:胃腸の動きが悪いとガスが滞留しやすいため
               消化管の病気がある場合,治療を行います。

 ・食餌内容:老齢犬では消化機能が低下しているため
       消化に優しいものに切り替えます。