膵炎

膵炎はその名の通り膵臓で炎症が起きた状態で、犬猫ともに認められる疾患です。 一般的に中~高齢での症例で発生頻度が比較的高い疾患と考えられています。
他の疾患と併発することで管理が難しくなるため、注意が必要な疾患です。

概要

われわれ人間を含め、動物の膵臓では消化酵素が作られており
この消化酵素によって、食べ物の消化を行っています。

膵臓の解剖
▲膵臓の解剖学的構造
 図中の黄色の臓器が膵臓(Pancreas)
 胃・十二指腸に隣接する形で存在している。
 Wikipediaより

膵炎とはこの消化酵素が本来活性化することのない膵臓内で活性化することで、
膵臓の自己消化が起きてしまうことが原因と考えられています。 なぜ消化酵素が活性化するかについては、明らかになってはいないのですが、
別の消化器疾患やホルモン疾患などが関与している可能性が指摘されています。

一般的に犬では急性膵炎猫では慢性膵炎が多いと言われています。
特に猫では死因に関わらず、解剖検査を行った猫の67%に膵炎が認められたとの報告があり、 様々な病気の下敷き・増悪要因になっている可能性が考えられています。

猫で膵炎が多い理由として、解剖学的な理由が指摘されています。
猫では胆管・膵管が一本の管になっており(犬ではそれぞれバラバラの2本)
消化管・胆嚢・膵臓の3つの臓器が互いに影響を受けやすいという特徴があります。
胆嚢や消化管の炎症が膵臓まで波及し、膵炎を引き起こすことがあります。
(炎症性腸疾患:IBDや胆管炎)
これら3つの臓器で炎症が起きることを、猫では3臓器炎という一般的に呼びます。
胆管肝炎の50%の猫で膵炎が認められ、そのうち39%でさらに炎症性腸症も認められた
との報告があります。

猫の膵臓のイメージ
▲猫の膵臓のイメージ
 総胆管と膵管が一本に合流しており
 炎症が波及しやすい
 Wikipediaより

症状

一般的な膵炎の症状は食欲低下・元気低下・嘔吐・体重減少・下痢・
脱水といった消化器症状が中心となります。

一般的に急性膵炎ほど激しい症状が認められやすいと言われており、
激しい症状の場合、嘔吐や下痢が認められ病院に来院するケースが多いのです。
一方、緩やかな慢性膵炎の場合などは目立った症状が現れず、年齢の影響もあって
食欲の低下や体重減少が見逃されることも多いと言われています。
犬では消化器症状に関連し、腹痛による「祈りの姿勢」が認められることもあります。
祈りの姿勢とは:上半身は伏せの状態のままお尻を立てたような姿勢です。
犬で腹痛がある際に認められます。
これらに加え胆管炎腸炎など併発する疾患に応じて黄疸・発熱・腹水・貧血
などの症状が認められます。激しい膵炎・併発疾患の場合、命の危険性もあります。

診断  

 診断には血液検査を行い膵特異的リパーゼ免疫活性検査が
 信頼性が高く、診断によく用いられています。

リパーゼというのは膵臓で作られている消化酵素の一つで主に脂肪の分解に関与しています。 膵炎になると上述のように消化酵素自身によって膵臓が消化され、血液中にリパーゼが漏れ出すことで、 血液中の濃度が上昇します。

この膵特異的リパーゼは比較的最近測定が可能となり、膵炎の診断が非常に容易になりました。 これ以前の膵炎の診断にはエコー検査・膵生検・血清リパーゼ・血清アミラーゼなどの 検査を組合わせて診断を行う必要があり、非常に煩雑であった経緯があります。

新しい検査法の登場により、現在膵炎の発生率は非常に増えていると言われています。 (獣医領域では新たな診断法の確立により、病気の診断が容易になり発生率が上昇するということがたまにあります。  発生率という表現は厳密には正しくないのかもしれませんが、一般的によく使われている表現のためここでは発生率にしています。)

 一点、注意が必要なポイントとして、この膵特異的リパーゼが高かった場合、膵炎と診断できるのですが  高くなかった場合、膵炎ではないとは限りません。(膵炎を除外できないという弱点があります)
その為、診断には総合的な判断が求められる場合もあります。

 
治療

治療は基本的に対症療法が中心となります。
(膵炎の薬というものは存在しません。)

急性膵炎では激しい嘔吐を伴う腹痛が認められるので、制吐剤痛み止めを使用します。 また膵臓を休める目的で絶食を行う場合もあります。
(そもそも嘔吐が続いているとご飯を与えても吸収ができないため、あまり意味がありません) これに加え水分補給の目的から、点滴を行い脱水の補正を行います。
ステロイドを抗炎症の目的で使用したり、菌感染の治療および2次感染予防として
抗生剤の使用も行われます。

それ以外の治療法としては、猫ではあまりに長期間食餌が取れずに絶食状態
が続いてしまうと肝リピドーシスを引き起こしてしまう可能性があり、
経腸チューブを設置する場合もあります。
(犬でも長期間食事がとれない場合などに設置を行います)

猫では膵酵素がコバラミンの吸収に関与しており、膵炎に伴って低コバラミン血症が
認められる場合があり、このような場合にはコバラミンの投与を行います。
さらに、激しい膵炎で膵液が腹腔内に漏れ出した場合、低カルシウム血症を引き起こします。 (低カルシウム血症が認められた場合、予後は悪くなるとされます)
この低カルシウム血症の補正のためカルシウム製剤の投与が行われます。

ポイント

膵炎での獣医師ポイントは何といっても「併発」です!

高齢での発生が多く、症状も非特異的(特徴的なものが無いこと)なものが多いため
いろいろな病気と併発することで管理を難しくしている場合が多々あります。
その為、特定の病気で治療を行っているにもかかわらず、なかなか良化しない
ようなケースでは隠れた膵炎がないか疑って検査を行ったりします。

特に猫では上記の3臓器炎を引き起こしやすいため、
もともとの原疾患がわからなくなってしまっているケースもあります。
原疾患が改善しない限り、症状は改善しにくく、繰り返しやすいため
管理の難しい症例も認められます。

病気がよくならず追加で検査を行うとなると、飼い主様としては
病院および獣医師の先生に対して不安感を頂かれるケースもあるかと思います。
しかしながら膵炎(特に慢性)に関しては、追加で検査を行うケースは少なくない点
を是非覚えておいて下さい。
最初から念のため膵炎の検査を行うことも可能(実際行うこともあります)なのですが、
その分だけ費用が大きくなってしまいます。その為、最初の検査でどこまで費用を掛ける
かといった部分で飼い主様と相談する場合もあります。
実際、膵炎の治療は対症療法が中心で、診断がついたからと言って特殊なお薬を使うわけ
ではありません。以上が「最初から膵炎検査を行うとは限らない」理由になります。