肝リピドーシス(脂肪肝)

肝リピドーシスとは、さまざまな原因により脂質代謝が障害され、
肝臓に過剰な脂肪が蓄積する病気です。
肥満猫ほど多く認められ、合併症として起こりやすいため
致命的な場合もある要注意疾患です。

肝リピドーシスとは簡単に言い換えると「脂肪肝」の状態です。
肝臓では糖の蓄積・分解だけでなく脂肪の代謝にも関与しており、

「脂肪をエネルギーとして取り出す」or「エネルギーとして体の中で使える状態にする」
といった振り分けを行う役割を持っています。
肝リピドーシスというのは、何らかの原因によって
この脂質代謝がうまく行えず肝臓内に過剰な脂肪が蓄積してしまった状態です。

原因として肝機能の低下などが挙げられるのですが、
一番の問題は別のところにあります。
猫は種の特徴(真性肉食動物)として脂質代謝機能が低い可能性が
示唆されており、数日間の絶食が続いてしまっただけで
肝リピドーシスを引き起こしてしまうこともあると言われています。

動物は食事を取れない状況になると、体に貯めた脂肪を分解することで
エネルギーを取り出し飢えを凌ぎます。この時、猫では比較的早い段階で、
大量の脂肪酸の処理に肝臓が耐え切れずに脂肪の蓄積が起こると考えられています。
肥満している猫ほど大量の脂肪が動員されるため発生リスクが高いと言われています。

極端な話、食欲が低下するだけで発生するため
ありとあらゆる疾患から併発する可能性があります。
また神経質な猫ちゃんでは、引っ越し・同居猫・生活環境の変化
から食欲の低下→肝リピドーシスが発生する場合もあります。
その為、入院環境下などスタッフが非常に気を遣う費用がある疾患です。

脂肪肝
▲脂肪肝の病理画像(人)
 脂肪の蓄積部分が空洞に見える「空砲変性」が認められる。
 Wikipediaより  

肝リピドーシスは雌猫のほうが発生率が高いとされ(雄の2倍)、
品種による影響はないと考えられています。

▲黄疸の猫
 体内に過剰のビリルビンが蓄積することで
 粘膜や耳介など色素の薄い部分で黄色く変色が認められる。
 Wikipediaより  

症状としては食欲低下・黄疸・元気消失・嘔吐・下痢・便秘
(下痢と便秘は50%以上の症例で報告されています)
・体重減少(短期間で25%以上の急激な体重減少など)
などから始まり、重度の場合には肝性脳症により流涎・意識障害・発作などの
神経症状が認められる場合もあります。
その他、背景に隠れている基礎疾患に応じた症状が認められます。

診断  

   診断には血液検査、
    ・肝酵素値(ALP・AST・GGT)などの上昇
    ・高脂血症(血清コレステロール)の上昇

黄疸・食欲低下・体重減少などの症状
肝臓の腫大(触診・超音波検査)の画像検査などを組み合わせて行うのが一般的です。

確定診断には肝生検を行い肝臓に脂肪が蓄積していることを確認する必要があるの
ですが、臨床上のメリットはあまりなく一般にはほとんど行われません。
(状態が悪い猫ちゃんに無理に麻酔をかけてしまうと、さらに症状や臨床状態
の悪化も考えられるためです)
肝リピドーシスでは臨床的に出来る限り、低侵襲で診断を行うことが必要となります。

 
肝リピドーシスの治療

肝リピドーシスの治療は「きちんとご飯を食べること」です。
一見非常に簡単に思えるかもしれませんが、猫ちゃんの食事に関して
神経質になる病気はほかに無いかもしれません。

吐き気が無い場合は食事量をその都度記録し、必要な量を入院下で
強制給仕を行います。嘔吐が認められる場合には、吐き気止めなどを併用し
食事がとれるように対症療法を行います。
それでも食事がとれない場合(激しい嘔吐を伴うケースなど)
経鼻チューブ・食道チューブ・胃瘻チューブを設置することで、
直接胃の中に食べ物を送ることが可能です。
各チューブには太さに限界があり

設置の簡単さ

    経鼻チューブ>食道チューブ>胃瘻チューブ

与えることのできる食事の量

    胃瘻チューブ>食道チューブ>経鼻チューブ

                        となります。

猫 胃チューブ PEGtube
▲左:食道チューブを設置した猫
 右:胃チューブの画像  

経鼻チューブは細いため、さらさらになるまで水で溶いたフード
(おかゆをさらに水で薄めた程度)しか送ることができず
一日に必要なすべての栄養分を満たすことは不可能です。
(大量に水で薄めたフードを胃の中に送ると、結局嘔吐を誘発してしまうため)
これに対し食道・胃瘻チューブではドロドロの食事を胃の中に送ることができる反面
処置に麻酔が必要になります。

また食餌に関してはリフィーディング現象への注意が必要です。
リフィーディング現象とは絶食期間が続いた症例に対し
食餌を再開した場合、体は積極的に栄養を吸収しようとインスリンを
大量に分泌します。インスリンは糖を細胞に取り込む反面、カリウムやリンの
血中濃度を下げてしまいます。
その為、食事を再開するにあたっては血液検査を行いながら
カリウムやリンの補正も行っていきます。

獣医師の本音

肝リピドーシスは猫を治療するうえで非常に厄介な障害となり得ます。
というのも猫の場合、入院そのものがストレスとなり、食欲の低下を
起こす子が非常に多いためです。

病院によっては猫のペットホテルでは事前に半日ほど試しで預かって
食欲など問題が無いことを確認してからお預かりをしているケースもあります。

その為、治療の上では入院が推奨されるが、入院してしまうと食欲がなくなってしまう
ような症例では理想的な入院治療が行えず治療の妨げになってしまうのです。
病院では看護師さんが強制給餌と言ってご飯を何とか与えるのですが、
必要量すべて与えることはできません。
(無理に食事をとらせると、猫ちゃんも返って消耗してしまいます)

食欲が低下してしまうだけで起きる疾患ですので
どんな病気とも併発があり得るため、
臨床獣医師にとっては頭を悩ませる疾患の一つです。
しかし、すべての猫が数日間食事を抜いたからと言って、肝リピドーシス
になるわけではありません。一般的に1週間近く食事がとれないと
肝リピドーシスを引き起こすと言われているのですが、
3日で発症した子もいれば、数週間にわたって食欲が乏しくても症状がみられない
子もいます。
どのような因子が影響しているのかまだ明らかになっていないのですが、
一般的に長期間の入院を行う場合には念のためリスクの説明を行うケースがあります。